舞台裏の神様

卒公の練習始まって、初めてつまらないと感じた。
もちろん、それ以前にもそう感じたことはあったけど、今日は違った。
全てを投げ出したくなってしまった。

練習開始から、1回も全員揃ったことがない。
残り10日きったのに、台詞を覚えていない。
さらに、それを悪いと思っていない。
シーン練に間に合えば、遅刻してもいいと思っている役者がいる。
作業が未だに完了していない。
後輩の話に耳を傾ける。
自分の演技がまだまだ納得できない。
満足いく卒公ができるのか不安になった。
大切な人の力になれない、支えになれない。

たぶん一番の原因は、今日から演出家が復帰したこと。
演出家がいない5日間は、自分が仕切ってやっていた。
かなり自由だった。
もともと演出希望だったし、1年生の演技を試行錯誤しながら考えるのは楽しかった。
そこには、僕が望んだ場所が用意してあった。

でも、今日から一人の役者に戻った。
オペに関しては、各チーフが見ているから言うことない。
演技も、演出家がチェックしている。

僕の役目は？

もちろん演出補佐であって、演出家じゃないのは分かってるよ。
あーあ、馬鹿みたい。
ここで折れるわけにはいかない。でもね…。

練習後に4年生の写真撮影があったけど、結局全員集まらなかった。
ふざけんなよ。

練習後、一人で舞台裏に引き篭もっていた。
にぎやかな笑い声。
色んな人の楽しそうな声。

いいんじゃない？
でも耳障りだった。

全てを捨てて、どこかへ行きたい。
練習を無断で休んだらどうなるのかな？
そんな勇気もないくせに。

舞台裏には神様がいるらしい。
だから僕は、気分が悪くなると、機嫌が悪くなるとそこにいく。
卒公は頼らないって決めてたけど、とうとう頼ってしまった。
どうやら、ちょっと疲れてるみたいだ。
休憩中の日向ぼっこは気持ちよかった。

あの人の声が聴きたい。
あの人のそばにいたい。
あの人に会いたい。